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第4回:「七五調を楽しむ」

第4回:「七五調を楽しむ」

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yosaburo2.jpgのサムネール画像日本語には、「七五調」と呼ばれる、七音節と五音節の繰り返しのリズムがございます。俳句や和歌といった詩(うた)が最もお馴染みですが、義太夫節や唱歌や歌謡曲にも、交通安全の標語にも、七と五の音節で構成されているものが数多く存在します。耳に優しく響き、口ずさみやすく、覚えやすいのですから、昔も今も七五調が好まれるのは当然のなりゆきでしょう。歌舞伎でも、様々な場面で七五調が活躍いたします。

この夏、僕は「切られ与三(よさ)」と呼ばれるお芝居の、与三郎というお役を演じさせて頂きました。物語は、育ちの良い若旦那が強請(ゆすり)をはたらく小悪党に成り下がった後、死に別れたはずのお富という恋人と、思いがけなく再会を果たすという設定です。ご年配の方は、「死んだはずだよ、お富さん」との流行歌の一節を思い出されるかもしれませんね。その与三郎の有名な台詞をご紹介いたしましょう。

しがねえ恋の情けが仇(あだ)、命の綱の切れたのを、どう取り留めてか木更津から、めぐる月日も三年(みとせ)越し、江戸の親には勘当うけ、よんどころなく鎌倉の、谷七郷(やつしちごう)は喰い詰めても、面(つら)に受けたる看板の、疵がもっけの幸いに、切られ与三と異名を取り、押借り(おしがり)強請(ゆすり)も習おうより、慣れた時代の源氏店(げんじだな)、その白化(しらば)けか黒塀に、格子造りの囲いもの、死んだと思ったお富とは、お釈迦様でも気がつくめえ

七五調のなめらかさが強請の現場に彩りを添えるという、心憎い演出です。

歌舞伎の台詞には、現代語では表す事の出来ない優美さや洒脱さを含めたフレーズが多々ちりばめられています。耳慣れない言葉を理解せねばと気張られるよりも、文語の持つ独特な優美さ洒脱さに、ゆったりと魅せられるのもよろしいのではございませんか。

撮影 KENTA AMINAKA 
 

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