難聴が引き起こす問題

これまで難聴は個人や家族など限られた範囲での問題として語られることが多かったのですが、最近では、認知症やうつ病などとの関連を指摘する研究が発表されるなど、社会全体で取り組むべき問題として捉えられるようになり、難聴を取り巻く状況も大きく変化してきました。

難聴は社会全体の問題です

加齢による聴力の低下は、誰にでも起こりうる現象です。聴力が低下しはじめる時期や低下する程度には個人差がありますが、本人にはなかなか自覚しにくく、日常生活に大きな支障をきたすことも多くないため、深刻な問題だと捉えられないケースが多いようです。
難聴とは単に音が聞こえにくくなることではありません。一般的に加齢によって聴力が低下すると、音の大小にかかわらず言葉そのものが聴き取りにくくなってきます。「声は聞こえるのに、何を言っているのかがわからない」ということが起きるのもそのためです。言葉がうまく聴き取れず会話の中で話の内容がよくわかっていないのに返事をしてしまって相手に誤解を与えたり、途中で何度も聞き返すので会話が弾まなくなってしまったりといったように、スムーズなコミュニケーションができなくなりがちです。そうしたことが重なってくると、知らず知らずのうちに人と話をするのが億劫になり人と会う機会が減ったり、外出しないで家に引きこもりがちになったりという現象が起きてきます。難聴が原因で「社会からの孤立・疎外」という問題が起きる恐れがあるということもいえます。
難聴は本人だけの問題ではなく、家族や職場、地域のコミュニティなど本人をとりまく社会との関係において非常に重要な問題であるといえるでしょう。

認知症やうつ病との関係

最近、さまざまなメディアで難聴が認知症に及ぼす影響が語られるようになってきました。以下、『よくわかる補聴器選び2109』(八重洲出版)の記事を抜粋しました。
2017年7月に、アルツハイマー病協会国際会議において、世界で1、2を争う権威のある医学誌『ランセット』が「認知症の予防、介入、対応」というタイトルで認知症の予防についてのレポートを発表しました。このレポートは世界から24名の著名な認知症に関する専門家を集め、多くの研究・調査データを集めて、その中から信頼できると思われるものだけを分析して認知症のリスク因子を検討したものです。その結果、65%は予防では対処できないものの、残りの35%は対応が可能なリスクとであると発表しました。

 

 

その予防可能なリスクで最も数値の高かったものが難聴です。55歳以上での難聴を対象としてみた時、全体の認知症の原因の9.1%を占めました(対応可能なものの中では約4分の1)。つまり、難聴を防ぐことができれば認知症の可能性を9%減らすことができるということです。他のリスク要因としては、15歳以下の低教育水準(7.5%)、喫煙(5.5%)と続き、以下、抑うつ、運動不足、社会的孤立、高血圧、糖尿病、肥満の9つの要因が認知症との関連を指摘されました。

 

認知症 予防可能なリスク35%の内訳

 

 

ただし、難聴と認知症について明らかに強い関連性があるにも関わらず、注目されだしたのが最近ということもあり、そのメカニズムはよくわかっていないこと、さらに補聴器を使うことで認知症を予防できるかについては現時点で不明としています。
難聴があると社会的孤立や抑うつが出やすいことや、音を聞き取ることに脳の余力を使ってしまうことが原因かもしれないとその理由について述べています。

耳から脳に入る情報

先に述べたように、難聴と認知症との因果関係は明確に明らかになっている訳ではありません。しかし、聴力の低下によって耳から脳に入ってくる情報が少なくなってくると、脳への刺激が減り、脳の活動が鈍ってきてしまいます。その結果として、認知症やうつ病を引き起こすリスクが高まるということができます。
目や耳をはじめとして、私たちはさまざまな器官を駆使することで周囲の状況を把握し、他者とのコミュニケーションを行っています。たとえ一つであっても、重要な役割を担う器官の能力が低下してしまうことは、私たちの生活に多大な影響を与えてしまいます。聴力の低下は、単に耳だけの問題ではないのです。

その他の影響

難聴が日常生活に与える影響として、JapanTrak 2018のアンケート結果に興味深いデータがいくつかあります。
まず、難聴と仕事との関わりについてのアンケートでは、補聴器を使用している人の約4割が、難聴の対策をしないと仕事上の出世に障害となると考えている一方で、補聴器を使用していない人のうち、難聴が出世の妨げになると考えている人は約15%でした。

 

補聴器所有と出世への影響(出典:Japan Trak 2018)

 

 

同じように、報酬についてのアンケートでも、補聴器使用者の3割が、難聴の対策を取っていないと報酬が低くなると考えているのに比べて、同じように考えている補聴器未使用者は13%と意識に大きな開きがありました。

 

補聴器所有と収入への影響(出典:Japan Trak 2018)

 

 

このように、難聴を自覚し対策を取っている人は、難聴を放置しておくことが仕事や収入に悪影響を与えると実感していることがわかります。
また、難聴が日常生活に与える影響という点では、疲労との関係についてのアンケートがあります。難聴度の高い人たちの中で、補聴器を使用していないグループのうち夕方になると精神的な疲労を感じるのが46%、肉体的疲労を感じているのが55%だったのに比べて、補聴器を使用しているグループでは精神的疲労が30%、肉体的な疲労は37%でした。この結果をみると、難聴を放置しておくことは、日常生活の疲労感に大きく影響しているということができます。

 

補聴器所有と疲労への影響(出典:Japan Trak 2018)

 

 

このように、難聴への対策を行うか行わないかということが、日常生活を大きく左右しているということは否定できません。

hearing_check_icon

手軽でかんたん。オンライン聞こえのチェック

ワイデックスの「オンライン聞こえのチェック」を試してみませんか。いくつかの簡単な質問に答えるだけで、あなたの聞こえの状態を知ることができます。
オンライン聞こえのチェック
トップへ